謝金を支払う際、一定の条件を満たす場合は、源泉徴収が必要になります。源泉徴収税額の計算方法や注意点を理解することは、適切な税務処理を行う上で重要です。
この記事では、謝金の源泉徴収義務や税額の計算方法、よくある間違いなどについて詳しく解説します。源泉徴収の対象となる謝金の種類や、税率の適用方法、控除額の差し引きなど、源泉徴収税額の計算に必要な知識を身につけましょう。
謝金の源泉徴収義務

謝金を支払う際、一定の条件を満たす場合には、支払者に源泉徴収義務が発生します。源泉徴収とは、所得税や復興特別所得税を支払者が徴収し、税務署に納付する制度のことです。謝金の支払者は、源泉徴収義務の有無を確認し、適切に処理を行う必要があります。
ここでは、以下の項目について解説します。
- 源泉徴収が必要な場合
- 源泉徴収の対象となる謝金
- 源泉徴収義務の例外
源泉徴収が必要な場合
謝金を支払う際、以下の条件を全て満たす場合は源泉徴収が必要になります。
- 支払先が個人であること
- 支払先が国内に居住する個人であること
これらの条件に当てはまる場合、謝金の支払者は源泉徴収義務を負うことになります。
源泉徴収の対象となる謝金
講演料、原稿料、司会料、演奏料など、役務提供の対価として支払われる謝金が源泉徴収の対象となります。
一方で、交通費や宿泊費などの「実費弁償分」は源泉徴収の対象外ですので、謝金と実費弁償分を明確に区分しておくことが重要です。源泉徴収の対象となる謝金の種類を正しく理解し、適切に処理を行いましょう。
参考:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
源泉徴収義務の例外
以下のような場合は、源泉徴収義務が免除されることがあります。
- 支払先が個人事業主であり、支払者が発行した支払調書に個人番号(マイナンバー)が記載されている場合
- 支払先が税理士や弁護士などの士業者であり、支払者が士業者の登録番号を確認した場合
このように例外に該当する場合でも、支払調書の作成や提出は必要となります。
謝金の源泉徴収税額の計算方法
謝金の源泉徴収税額を正確に計算することは、適切な税務処理を行う上で非常に重要です。ここでは、次の内容について詳しく解説します。
- 税額の計算式
- 税率の適用
- 税率の変更
税額の計算式
源泉徴収税額は、以下の計算式で求められます。
支払金額×10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)
税率の適用
源泉徴収税額の計算に用いる税率は、支払先の居住状況によって異なります。
- 支払先が居住者の場合:10.21%
- 支払先が非居住者の場合:20.42%
居住者とは、国内に住所を有する個人や、現在まで継続して1年以上居住している個人のことです。非居住者とは、居住者以外の個人を指します。
なお、源泉徴収税額の計算に用いる税率は、所得税と復興特別所得税を合わせた税率となっています。支払先の居住状況を確認し、適切な税率を適用しましょう。
参考:国税庁「原稿料や講演料等を支払ったとき」
参考:国税庁「No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」
税率の変更
源泉徴収税額の計算に用いる税率は、税制改正などにより変更される場合があります。最新の税率を確認し、適用することが重要です。税率の変更があった場合、システムの設定変更や、計算方法の見直しが必要になることがあります。
源泉徴収税額の計算例
ここでは、居住者と非居住者への謝金支払いを例に、源泉徴収税額の具体的な計算方法を見ていきましょう。
次の項目に沿って詳しく解説していきます。
- 居住者への支払いの場合
- 非居住者への支払いの場合
- 複数回に分けて支払う場合
居住者への支払いの場合
講演料として、居住者の個人に3万円を支払う場合、源泉徴収税額は以下のように計算してください。
(30,000円)×10.21%=3,063円(端数切捨て)
居住者に適用される税率10.21%を乗じ、1円未満を切り捨てることで、源泉徴収税額3,063円が算出されます。
非居住者への支払いの場合
原稿料として、非居住者の個人に10万円を支払う場合、源泉徴収税額は以下のように計算しましょう。
(100,000円)×20.42%=20,420円(端数切捨て)
非居住者への支払いの場合も、計算方法は居住者の場合と同様です。ただし、非居住者に適用される税率は20.42%と高くなっています。謝金額に税率20.42%を乗じた後、1円未満を切り捨てることで、源泉徴収税額20,420円が算出されます。
複数回に分けて支払う場合
同一の支払先に対し、複数回に分けて謝金を支払う場合、1回ごとの支払金額が1万円以下の場合は、その都度源泉徴収を行う必要はありません。
しかし、支払金額の合計が1万円を超える場合は、合計金額に対して源泉徴収を計算します。たとえば、同一の支払先に対し、1回目に5万円、2回目に3万円を支払う場合、合計8万円に対して源泉徴収税額を計算することになります。
源泉徴収税額の計算における注意点
源泉徴収税額を計算する際には、いくつかの点に注意しなければなりません。ここでは、次のような項目について解説します。
- 消費税込みの金額で計算する
- 端数処理に注意する
- 謝金の支払時期と源泉徴収
消費税込みの金額で計算する
源泉徴収税額は、消費税込みの謝金額を基に計算します。仮に消費税を除いた金額で計算してしまうと、源泉徴収税額が本来より少なくなってしまう可能性があります。謝金の支払者は、消費税を含んだ金額で源泉徴収税額を計算するように注意しましょう。
端数処理に注意する
源泉徴収税額の計算結果は、1円未満を切り捨てます。たとえば、計算結果が3,063.5円となった場合、源泉徴収税額は3,063円となります。切り上げや四捨五入を行うと、源泉徴収税額が誤ってしまうため、必ず切り捨てを行いましょう。端数処理を正しく行うことで、適切な源泉徴収税額を算出できます。
謝金の支払時期と源泉徴収
源泉徴収税額は、謝金を支払う際に計算し、徴収する必要があります。支払時期と徴収時期がずれてしまうと、延滞税が発生する可能性があります。支払時期に合わせて、源泉徴収税額を計算し、徴収することが重要です。
源泉徴収税額を計算する際によくある間違い

源泉徴収税額の計算には、いくつかの注意点があります。ここでは、税率の適用に関する以下のような間違いについて解説します。
- 税率の適用を間違える
- 支払調書の提出を忘れる
税率の適用を間違える
支払先が居住者か非居住者かによって、適用する税率が異なります。居住者の場合は10.21%、非居住者の場合は20.42%の税率を適用してください。
支払先の居住状況を確認せずに税率を適用すると、源泉徴収税額が誤ってしまう恐れがあります。支払先が居住者か非居住者かを確実に確認し、適切な税率を適用するようにしましょう。
支払調書の提出を忘れる
源泉徴収をした謝金については、支払調書を作成し、税務署に提出する必要があります。支払調書の提出を忘れてしまうと、ペナルティが課されることがあります。源泉徴収税額の計算だけでなく、支払調書の作成と提出も忘れずに行いましょう。
源泉徴収税額の納付
源泉徴収した税額は、所定の期日までに納付しなければなりません。ここでは、次のような源泉徴収税額の納付について解説します。
- 納付方法
- 納付期限
納付方法
源泉徴収税額は、以下の方法で納付できます。
- 税務署の窓口で現金納付
- 銀行や郵便局の窓口で納付書により納付
- インターネットバンキングやダイレクト納付による電子納付
納付方法によって、手数料や利用可能な時間帯が異なりますので、確認のうえ、適切な方法を選択しましょう。
納付期限
源泉徴収税額の納付期限は、原則として支払った月の翌月10日までです。納付期限を過ぎてしまうと延滞税が発生しますので、注意が必要です。
参考:国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
源泉徴収の処理を効率化するおすすめの謝金システム
公益情報システム株式会社が提供する「謝金システム」は、謝礼金支払い業務や臨時職員への報酬管理を効率化できるシステムです。公益法人や教育機関で利用できます。
謝金システムは、クラウド版とオンプレ版の両方に対応しており、独自の運用に合わせたカスタマイズも可能です。様々な台帳・集計表の印刷出力や銀行振込データや現金支給の明細書・領収書の発行などに対応しています。
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謝金を受け取った場合の手続きの流れ
謝金を受け取った場合は、所得が発生するため、金額に応じて確定申告が必要です。
ここからは、次の項目について解説していきます。
- 謝金を受け取った際は確定申告が必要な場合がある
- 謝金の受け取りに関する経費の領収書を保管する
- 確定申告で算出された金額を納税する
- 謝金に加算される所得額に対応するパーセンテージ
謝金を受け取った際は確定申告が必要な場合がある
謝金は、継続的な業務に基づく報酬でない限り、基本的に「雑所得」として課税対象になります。たとえば、講演や取材協力などで得た謝金が該当します。
会社勤めをしている方でも、給与所得以外の所得(副収入)が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。また、フリーランスや個人事業主であれば、所得が基礎控除額(通常48万円)を超える場合に申告義務が発生します。
謝金の受け取りに関する経費の領収書を保管する
謝金を得るために支出した費用は、「必要経費」として所得から差し引くことができます。たとえば、講演のための交通費や資料作成費、通信費などが該当します。
これらを正しく申告するためには、領収書やレシートを保管しておくことが重要です。確定申告時には、収入だけでなく経費も正確に記録することで、課税所得を適切に計算できるでしょう。
確定申告をした場合は算出された金額を納税する
確定申告を行うと、年間の所得に対して課税される所得税の金額が算出されます。その金額に基づき、所定の期限までに納税を行う必要があります。通常、納付期限は翌年の3月15日までです。
源泉徴収がされている場合でも、最終的な所得税額が過不足なく納付されているかを確認し、不足分があれば追加で納税する必要があります。逆に納めすぎていた場合は、還付を受けることも可能です。
謝金に加算される所得額に対応するパーセンテージ
謝金を受け取った場合は、基本的に雑所得として区分されます。雑所得とは、事業所得や不動産所得など、他の所得区分に当てはまらない所得のことです。
雑所得は、多くの場合、総合課税の対象となります。総合課税の対象となっている収入を合計し、年間所得を算出した金額に課税される金額を所得税として支払います。
所得税は、所得額が増えるほど高くなります。所得に応じたパーセンテージと控除額は以下の通りです。
所得額 | 所得にかかるパーセンテージ | 控除額 |
---|---|---|
1000円〜194万9000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9000円 | 10% | 9万7500円 |
330万円〜694万9000円 | 20% | 42万7500円 |
695万円〜899万9000円 | 23% | 63万6000円 |
900万円〜1799万9000円 | 33% | 153万6000円 |
1800万円〜3999万9000円 | 40% | 279万6000円 |
4000万円〜 | 45% | 479万6000円 |
謝金の源泉徴収税額の計算方法と注意点についてまとめ
謝金の源泉徴収税額は、支払金額から控除額を差し引き、税率を乗じることで計算します。支払先が居住者の場合は10.21%、非居住者の場合は20.42%の税率を適用します。
また、源泉徴収税額は消費税込みの金額を基に計算し、計算結果の1円未満は切り捨てなければなりません。税率の適用を間違えないよう注意しましょう。
源泉徴収をした謝金については、支払調書を作成し、期限までに税務署に提出することも忘れてはいけません。源泉徴収税額は、所定の期日までに納付する必要があります。源泉徴収税額の計算方法と注意点を十分に理解し、適切な税務処理を行いましょう。