法人は支払調書を作成して税務署に提出するか判断する必要があります。しかし、「5万円以下の場合に提出不要となる」と聞いたことがあっても、法人が基準を知らないことは意外と少なくありません。
そこで、5万円以下で提出が不要なケースについて説明し、提出が必要ならその方法や作成におすすめなサービスを紹介します。
支払調書が5万円以下の場合は提出不要
結論から述べれば、支払調書は5万円以下の場合に提出不要です。「5万円」が基準となるケースは、弁護士や税理士など士業の原稿料・講演料の報酬が「1人に対して年間で5万円を超えたとき」に、支払調書の提出義務が発生します。
他にも以下のような支払内容で「5万円」が基準となるのが一般的です。
- 作家や漫画家の原稿料・講演料
- プロ野球の選手の年俸や契約金
例えば、弁護士の講演料なら年間で55,000円(5万円超え)の支払いがあった場合です。
しかし、外交員やプロボクサーなどの年間報酬、それと社会保険診療報酬の報酬は、「50万円を超えた場合」が基準となります。5万円以下でも不要となりますが、5万円を超えても50万円以下ならこのケースでは提出不要の扱いです。
5万円以下の場合は提出不要ですが、「5万円を超えたら提出義務がある」とは必ずしもいえません。例えば、30万円でも外交員の場合は提出が不要です。
競馬の賞金では、提出義務に「75万円」が設定されています。このような基準を踏まえて、支払う側は金額から提出範囲を確認することが必要です。
提出が必要な場合は、支払調書を国や国税庁が決めたルールで書類を発行して、税務署に提出する義務があります。
参考:国税庁「No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等」
支払調書が5万円以下で提出不要となるのは税務署だけ?
支払調書の5万円を超えた場合の提出義務は、相手が「税務署」の場合です。税務署以外の「支払った相手」に対しては、支払調書を送付・提出する義務はありません。
金額(5万円以下)に関係なく、支払調書を相手に発行して渡すことは法人の自由です。自主的に渡す場合や支払先から求められて発行するのが通例となるため、支払う会社のスタンスによって発行の対応が異なります。他の会社が交付していても、自社に発行義務が生じるわけではありません。
支払調書が5万円以下でなく、提出が必要な場合の対応

支払調書は、5万円を超えて提出が必要となる場合に、正しい提出の仕方が求められます。
提出方法は、国税庁が具体的に省庁ホームページや法令関連の部分で公開しているため、支払調書の作成が必要な法人は、以下をチェックしてみてください。
書類様式
支払調書は、報酬や料金などを支払った事実を税務署に報告するための書類です。報酬を得た納税者もこの情報をもとにして税務署が課税額を確定します。その確定に必要な書類様式と記載内容が決まっており、「手書用」か「入力用」のそれぞれの「令和 年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を国税庁のウェブサイトから入手できます。
国税庁の記載ルール(書類の次に書き方や注意を記載)を参照しながら記載してください。
参考:国税庁「F1-3 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)」
手書きと入力の提出手段の違い
支払調書を作成する際は、該当の年度となるPDFファイルをダウンロードして、国税庁が定めるルールに従って記載します。
支払調書は作成方法が2通りあります。
- 「e-Tax」と呼ばれる電子申告システムで入力を用いる方法
- 紙の書面で行う手書きの方法
e-Taxを使う場合は、インターネット環境が必要となり、電子証明書や利用者識別番号の取得が前提です。一方、書面での提出は、税務署が公開している書式を印刷し、手書きで記入の上で税務署に郵送か、直接持って来署します。
記載内容
記載項目には、支払われた人の情報や区分、支払金額、支払者の情報などの記載欄があります。国の記入様式のため、難しい用語が多いですが、「法人が誰にいくら払ったのか」という情報を記載するものです。その際、源泉徴収が発生する報酬は、特に税額を正しく記入することが必要となります。
記載の流れは、まず「支払を受ける者」の欄に住所や氏名(法人の場合は法人名と所在地)を記載します。個人ならマイナンバー12桁、法人なら法人番号13桁を右詰めの入力です。「区分」には支払いの種類を具体的に書きます。例えば、原稿料、講演料、翻訳料、著作権使用料、広告宣伝のための賞金など、対象ごとに分類することです。「細目」に書く内容はその詳細です。原稿料なら「支払回数」、印税なら「書籍名」、出演料なら「出演作品の題名」、教授料なら「講座名」、弁護士報酬なら「事件名」を記載します。
「支払金額」にはその年内に確定した金額、「源泉徴収税額」には実際に徴収した税の額です。未払いがある場合は「内書(うちがき)」を使用します。「摘要」の欄には、特例や免除に関する事項を明記する決まりです。支払先が源泉徴収免除の証明書を持っている場合や、災害による徴収猶予がある場合となります。そして、その趣旨と金額を記入するルールです。最後に「支払者」の欄に支払者の住所、氏名または法人名、電話番号、番号を記載し、合計表を添付します。
参考:国税庁「F1-3 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)」
参考:国税庁「令和 年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」
支払調書が5万円以下でなく、提出する場合の期限は?
支払調書が5万円を超えて必要となった場合、その提出期限は「支払が確定した年の翌年の1月31日」です。これは、法人が守るべき期日です。
このとき、電子の提出方法を活用できるe-Taxなら、郵送の時間などを気にせずオンラインで即座に提出できます。
一方、書面で提出する場合は、郵送なら到着日を期限内にする必要があります。行政が到着日を重視することは「到達主義」と呼ばれます。そのため、郵送の際には配送日数を踏まえて、投函日に余裕を持ち、期限内となるように営業日や配送日から逆算して準備することが必要です。
参考:国税庁「No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等」
支払調書が5万円以下でなく、支払調書の非居住者に対する支払の場合
非居住者とは、日本国内に住所を持たない個人や外国法人を指します。非居住者への報酬や料金の支払いが年間50万円以下の場合には、支払調書の提出は不要です。しかし、支払総額が50万円を超えると、外国居住の場合の報酬でも提出義務が発生します。
例えば、外国に住むコンサルタントに年間で60万円を支払った場合です。50万円を超えて、提出義務が生まれます。
また、非居住者が国内で行った業務の報酬は、通常様式の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」には書かず、「非居住者に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書」の書類様式を使用します。
参考:国税庁「No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等」
5万円以下以外にもある!支払調書が不要となるケースとは
支払調書の提出義務は、基本的に金額によってのみ判断されます。例えば、5万円以下の場合には提出が不要です。しかし、それ以外の理由で提出範囲が変わることも、提出義務がなくなることもありません。
つまり、金額以外の理由で提出を省略できるケースはないのです。支払総額を正確に集計し、提出基準を満たすかどうかを普段から確認することです。この点を正しく理解しておけば、不要な場合の提出をせずに済みます。
ちなみに、支払調書の提出を怠ったり、記載内容に誤りがあったりすると国税法の罰則があります。具体的には、所得税法で「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」の規定です。
ただし、間違えただけでこれが適用されるわけではありません。提出義務のある支払いを故意に隠した場合など悪質なケースのみです。
参考:国税庁「第8 その他」
そもそも支払調書とは?
ここからは、支払調書や支払調書の種類について解説します。
支払調書とは?
支払調書とは、企業や団体がフリーランスや個人事業主などに報酬・料金を支払った際に、その金額や源泉徴収した税額などを記載し、税務署に提出する書類のことです。支払いの内容によって様式が分かれています。
支払調書の主な目的は、納税者の支払いを税務署が正確に把握し、適切な課税を行うためにあります。提出義務は支払う側に課されており、支払先本人には必ずしも交付する義務はありませんが、実務上は確定申告の参考資料として渡されることもあります。
支払調書の種類
支払調書には、支払う内容や相手によっていくつかの種類が存在します。たとえば、次のような種類があります。
①報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
原稿料・講演料・デザイン料・士業(弁護士、公認会計士、税理士など)への報酬、広告出演料、芸能活動の報酬、放送出演料など、幅広い支払が対象となります。
②不動産の使用料等の支払調書
土地や建物の賃借料、更新料など、不動産の使用に関する支払いをした場合に必要な調書です。不動産の使用料を支払う法人または個人に提出義務があります。
③不動産の譲受けの対価の支払調書
不動産の譲受け、同じ人にその年の支払金額の合計が100万円を超える場合に必要となります。
④利子の支払調書
利子等の支払いをした方や支払の取扱者などが対象となります。
⑤配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書
株主に対して支払われる配当金や、投資信託の分配金などを支払する法人が対象となります。
代表的なものを紹介しましたが、どの調書を作成・提出するかは、支払いする内容に応じて決まります。種類を確認して、作成することが必要です。
支払調書を正しく作成する際のポイント
支払調書は、税務署へ収入と税額を正しく報告するために欠かせない書類です。記載ミスや提出漏れがあると、訂正や追加対応が必要になり、余分な手間やリスクを招きます。
正確な情報・正しい税額・期限厳守 が支払調書作成の基本です。また、e-Taxや会計システムを活用することで、業務を効率的かつ円滑に進めることができます。
支払調書の作成におすすめな公益情報システムの「謝金システム」

支払調書の作成で法人におすすめしたいのが、公益情報システムの「謝金システム」です。
支払調書や源泉徴収票の印刷機能を備えているため、書類作成の負担を軽減できます。入力は画面上で簡単に行えて、消費税や所得税の計算も自動化されるのが魅力です。
さらに、記入項目となるマイナンバーなどの管理ツールで連携が可能となります。データの二重入力やミスを防ぎつつ利用可能。支払調書が5万円を超えて提出義務が発生した場合の書類作成と提出の準備におすすめです。
支払調書にマイナンバーは必要?
支払調書には、支払う側(作成者)と受け取る側(受給者)のマイナンバー情報が必要です。ただし、用途や交付先によって記載の扱いが異なります。
税務署提出用には、支払者・受給者のマイナンバー(または法人番号)を必ず記載する必要がありますが、本人に交付する控えにはマイナンバーを記載しないのが原則です。
マイナンバーは個人を特定する情報のため、厳格な管理が必要です。従業員や外部に漏れないよう、鍵付き保管・パスワード管理などの対策が必須となります。
支払調書と源泉徴収の違いとは?
支払調書は、企業や団体が報酬や料金を支払った際に、支払金額や源泉徴収税額を記載して税務署に提出する書類です。原稿料や講演料、弁護士報酬、不動産使用料など、該当に関する項目を支払った場合に提出します。
源泉徴収は、報酬や料金を支払うときに、実際に企業などが支払した金額を記載する書類です。支払者があらかじめ所得税を天引きして預かり、国に納める制度です。
支払調書が5万円以下でない場合のよくある質問
支払調書が5万円以上となり、提出が必要な場合のよくある質問をまとめました。
支払調書はいつまでに提出が必要ですか?
該当する支払いを行った翌年の1月31日までに必要です。
支払調書は受給者に必ず渡さなければなりませんか?
受給者への交付は義務ではなく、任意となっています。
支払調書にはマイナンバーを記載する必要がありますか?
支払を受ける側(個人の場合は個人番号、法人の場合は法人番号)と支払者の番号の記載が必要です。ただし、受給者に交付する控えには、マイナンバーは記載は不要です。
支払調書が5万円以下で提出不要についてのまとめ
支払調書は、5万円以下で提出が不要となる書類です。ただし、内容によって税務署に提出義務の発生する金額は5万円・50万円・75万円の基準で異なることがあります。
また、源泉徴収の有無にかかわらず提出が必要な場合があるためそのルールも要確認です。期限を過ぎたり誤った記載をしたりするとルール違反となるため、正確な税額内容の作成と提出義務の有無を確認する必要があります。