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公益法人の財務諸表とは?書き方や注意点を解説


2025.12.25

公益法人の会計・決算というテーマは、法律・制度と実務が絡む複雑な領域ですが、本記事では「公益法人 財務諸表」に焦点を当て、制度的根拠や実務上の注意点も含めて丁寧に解説します。財務諸表の基礎理解から書き方・運用のコツまでを幅広く見ていきましょう。

公益法人の財務諸表とは?

まず公益法人とは、公益目的の事業を一定の条件の下で行う法人を指し、代表例として公益社団法人・公益財団法人などがあります。これらの法人は、非営利性や社会的責任が強く求められるため、財務透明性と説明責任を担保することが重要です。

「財務諸表」とは、一般に貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書(またはこれに相当する計算書)、附属明細書、注記などを指します。公益法人の場合、それらを新公益法人会計基準(令和6年基準)に基づいて作成することが一般的です。

公益法人会計基準は、公益法人の財務諸表や附属明細書、財産目録の作成基準を定めており、公正かつ正確な報告を担保することを目的としています。

公益法人会計基準によれば、一般原則として「真実性・明瞭性」「正規の簿記の原則」「継続性の原則」「重要性の原則」などが求められます。例えば、資産・負債・純資産(正味財産)の状態と純資産(正味財産)の増減の状況が真実かつ明瞭に表示されることや、正しく記帳された帳簿を基に作成すること、会計処理の一貫性を保つことなどが要件です。

また、公益法人には複数の会計区分(公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計など)を分けて記録しなければならない制度もあります。これは、各活動の収支を明瞭にするためです。

なお、2025年4月からは公益法人会計基準の改正(新公益法人会計基準の導入)が施行されており、財務諸表の記載内容の簡素化や注記の拡充などが求められています。

このように、公益法人の財務諸表は、ただの決算報告ではなく、公益活動を行う法人としての説明責任を果たす重要な開示手段でもあるのです。

公益法人の財務諸表の主な目的

公益法人が財務諸表を作成・公表する目的は、多様ですが、主に次のような意義が挙げられます。

説明責任と透明性の確保

公益法人は、公共性・公益性が強く求められる性格があります。そのため、関係者(寄付者、行政、支援者、利用者など)に対して財政状態や事業運営状況を明らかにする義務があります。財務諸表を整備・公表することで、外部ステークホルダーに対して説明責任を果たす役割を果たします。

信頼性向上・ガバナンス強化

正確な財務情報の開示は、法人運営に対する信頼性を高め、ガバナンスを強化します。また、寄付を受ける場合や資金提供を受ける場合などに、財務の健全性を示す材料となります。

内部管理と経営判断支援

財務諸表は、法人自身の経営判断や資金繰りのモニタリングにも不可欠です。年度ごとの収支傾向、資産の増減、キャッシュフロー動向などを把握し、次期予算や事業拡大計画、資金調達戦略などに役立てられます。

外部規制対応・法令順守

公益法人は、認定法や改正公益法人制度などの規制に従う義務があります。定期提出書類として、決算書、財産目録、附属明細書などを行政庁へ提出・公表する必要があります。

会計監査人の設置義務も一定規模の法人には課されており、義務を満たすことで外部監査による信頼性担保もなされます。

比較可能性・適用性の確保

規格化された会計基準(公益法人会計基準など)に基づく財務諸表を作成することで、同種法人間の比較が可能になります。これにより、支援先選定や業界分析などにおいて意味のある指標として活用できます。

公益法人の財務諸表の書き方

公益法人の財務諸表を実際に作るためには、手順を踏んだ準備と会計処理が不可欠です。以下はその流れとポイントです。

準備段階:会計方針・区分経理の決定

まず、どの会計基準を採用するかを明確化する必要があります。公益法人では、一般的に「新公益法人会計基準(令和6年基準)」を適用することが推奨されています。

次に、法人内で複数会計区分を設定します。公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計の三つの区分が典型です。各区分ごとに収支を明確にすることで、活動内容ごとの採算性や資金配分を把握しやすくなります。

また、会計処理の方針(棚卸資産の評価方法、減価償却方法、引当金の計算基準など)を定め、継続性を持たせることが重要です。これにより翌年度以降の整合性が担保されます。

実際の記帳と会計処理

公益法人の財務諸表を作成するうえで、日々の記帳と決算処理は最も重要な工程です。基礎となる取引の整理から、最終的な財務諸表の完成まで、順を追って正確に行うことが求められます。

ステップ1:仕訳入力と帳簿整備

まず、日々の取引を仕訳して帳簿に記録します。
現金の出入りや預金、会費、寄付金、補助金、経費など、すべての取引を正確に記帳することが基本です。公益法人の場合は、一般企業と異なり「公益目的事業会計」「収益事業等会計」「法人会計」の三つに区分して処理する必要があります。区分を誤ると、最終的な財務諸表に大きな影響を与えるため注意が必要です。

ステップ2:試算表の作成

取引を一定期間集計し、各勘定科目の残高をまとめて試算表を作成します。
ここで金額の整合性を確認し、不一致や記入漏れを発見した場合は修正仕訳を行います。この段階で不備を正しておくことで、決算作業をスムーズに進められます。

ステップ3:決算整理仕訳

期末には、実際の財務状況を反映させるための決算整理を行います。
具体的には、減価償却費の計上、引当金の繰入、未払・未収項目の整理、棚卸資産の評価、前払・前受金の調整などがあります。公益法人では、収益事業から公益目的事業への繰入など、特有の処理も必要です。これらを正確に行うことで、財務の実態が明確になります。

ステップ4:財務諸表案の作成

決算整理を終えたら、貸借対照表、純資産(正味財産)財産増減計算書、キャッシュ・フロー計算書、附属明細書、注記、財産目録などを作成します。
公益法人会計基準に沿って様式や表示区分を整えることが重要です。数字をまとめるだけでなく、根拠や注記も明確に記載しておくと、外部からの信頼度が高まります。

ステップ5:レビューと提出

完成した財務諸表は、理事会や監事による確認を経て最終版を確定します。
規模の大きい法人では、公認会計士や監査法人による外部監査を受ける場合もあります。最終的に、行政庁への提出やウェブサイトでの公開を行い、公益法人としての説明責任を果たします。

このように、公益法人の記帳と会計処理は、日々の仕訳から試算表、決算整理、財務諸表作成、レビュー・提出まで一貫して行う必要があります。各ステップを正しく実施することで、信頼性の高い財務報告を実現できます。

公益法人の財務諸表を書く時の注意点・コツ

財務諸表を作成する際には、ただルールに沿えばよいというわけではありません。以下の注意点やコツを踏まえておくことで、より信頼性の高い報告書を作成できます。

区分経理の徹底と合理的配賦方法

公益法人では、事業別・会計別に財務を分けて記録する必要があります。共通費用や収益を適切に配賦する方法を定めなければ、不公平感や不透明感が生じる恐れがあります。例えば、共通管理部門コストを合理的に配賦するルールを設けましょう。

また、収益事業から公益目的事業への利益繰入(繰入金)など会計区分間の振替処理は、認定法の規定に沿う必要があります。公益目的事業会計から他の会計へ振替することは認められていない点なども要注意です。

出典明示と注記・附属明細書の充実

財務諸表に記載される数値の背景には、さまざまな判断や前提があります。特に見積り・仮定を含む処理(引当金、減損、評価替えなど)に関しては、附属明細書や注記で説明を加えることが求められます。これにより、読み手の理解を助け、信頼性を担保できます。

継続性・会計方針変更時の扱い

会計処理方法や方針を一貫して適用する「継続性の原則」が求められます。もし前年と異なる処理を採る必要が生じた場合は、その旨を注記し、変更理由を明示することが一般原則です。

数字の整合性・チェック体制の強化

記入ミスや転記ミス、集計間違いが生じやすいため、複数段階のチェック体制を設けることが大切です。例えば、試算表段階 → 決算整理後 → 財務諸表案 → レビュー段階という流れでチェックを重ねましょう。

会計基準改正への対応

前述のとおり、2025年4月以降に新公益法人会計基準(令和6年基準)が改正され、記載様式や注記要件などが変化しました。そのため、改正内容をもとに設計を見直しましょう。

業務フローとシステム対応の整備

財務諸表の作成は単なる数字の羅列ではなく、日常の記帳から決算整理、電子公告、提出手続きまで含む一連の業務です。会計ソフトや管理体制を整え、決算ルーチンを標準化しておくと、年度末の負荷が軽減されます。特に、改正後は電子公告等の対応が必須になる可能性もあり、システム面での準備も重要です。

公認会計士または監査人の関与

規模の大きい公益法人には、会計監査人の設置義務があります。適用基準を満たす法人は、監査人を選任し、外部監査を受けることが法律上求められています。これにより財務書類の信頼性を高めることができます。

公益法人の財務諸表についてまとめ

公益法人の財務諸表は、組織の信頼性と透明性を支える重要な報告書です。最後に要点を簡単に整理しておきましょう。

  • 公益法人会計基準に沿って財務諸表を作成することが基本である
  • 貸借対照表・純資産(正味財産)財産増減計算書・附属明細書などで構成される
  • 財務諸表の目的は説明責任とガバナンス強化にある
  • 区分経理や注記の充実が信頼性を高めるポイント
  • 会計基準改正や監査対応にも継続的な意識が必要

制度を正しく理解し、適切に運用することで、公益法人の健全な経営と社会的信頼を維持することができます。