支払調書はさまざまな取引において、税務署から提出を求められますが、この記事では報酬や料金、各種謝金に関して解説します。支払調書に位置付けに始まり、書き方や提出方法まで詳しくみていきましょう。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書とは?
企業や個人事業主が、フリーランスや講演者、専門家に執筆や公演を依頼して対価や謝礼を支払った場合に、支払調書を提出する義務があります。ここで登場する支払調書とは何ものなのかを、詳しく解説します。
法定調書のひとつ
支払調書とは、個人やフリーランスの事業者に、記事の執筆を依頼して報酬を支払ったり、専門家や芸能人に講演を依頼して謝礼を出した場合に、報酬や料金の内容を記録し、税務署に提出する法定調書の一種です。
法人間の取引では発生しませんが、弁護士や税理士などの士業、専門家をはじめとする講演者、芸能人などへの報酬支払いがある場合は該当します。国税庁が管理する法定調書であるため、重要な書類であり、記載内容の正確性はもちろんのこと、定められた期間内に提出しなければなりません。
所得税に規定に基づいて提出の義務がある
報酬等の支払調書は、所得税法第225条などに基づき、一定の支払いが発生した場合に、提出が義務付けられています。対象となるのは、原則として1年間に5万円を超える報酬や料金などで、報酬の種類によっては源泉徴収を伴うケースもあります。
提出先は企業や個人事業主が納税する地域の所轄の税務署で、提出期限は翌年の1月31日までです。この期限を過ぎると不提出加算税のペナルティが課される可能性もあるため、納付期限には十分注意しましょう。
支払調書には受給者のマイナンバーの記入も必要で、事前に本人から番号の取得と本人確認が義務付けられています。
対象となる支払の具体例
支払調書の対象となる事例を詳しく確認しましょう。代表的な例としては、フリーランスへの原稿料や外部講師への講演料、弁護士や税理士への顧問料などがあります。また、芸能人の出演料やカメラマンへの撮影料、デザイナーへの制作費なども、支払調書の対象です。企業が主催するコンテストの賞金や、キャンペーンの報奨金なども該当する場合があります。
5万円以上が該当すると前述しましたが、この金額は同一受給者が受け取る1年間の総額です。1回2万円の講演を年間で3回以上依頼した場合、年間で5万円を超えることになるため、1度の支払額が5万円未満でも、支払調書提出の対象となります。そのため、支払調書の作成には、支払いの内容と税法上のルールを照らし合わせながら、慎重に判断しましょう。
源泉徴収の対象となる報酬
個人に対して支払われる報酬や料金のうち、所得税を差し引いた上で支払う必要があるものは、源泉徴収の対象となります。例えば、原稿料や講演料、デザイン費、翻訳料、芸能人の出演料、弁護士や税理士など士業への報酬が該当します。
注意したいのが、報酬や料金に税金が含まれているか否かです。税込か税抜かで源泉徴収金額は変わってきます。請求書の記載内容を確認し、支払調書の正しい記載を心がけましょう。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の作成と提出

支払調書の作成方法と提出方法について確認しましょう。記載する項目が決まっているため、エクセルで自作して作成してもよいですが、国税庁のフォーマットを利用することが一般的です。また、各種会計ソフトを利用すると、支払調書を自動的に作成する機能が組み込まれており、作成や提出が簡略化できます。
必要な記載項目
支払調書に記載すべき主な項目は以下のとおりです。
- 報酬支払先の氏名・住所・マイナンバー
- 支払年月日
- 支払金額
- 源泉徴収額
- 区分
- 摘要
支払金額は税込での記載が基本ですが、請求書の記載によって税抜で計算するケースもあります。また、摘要欄では旅費交通費を含むか否か、源泉徴収の対象外であるかなどを明記します。内容不備があると、再提出を求められることもあります。マイナンバーの記載は必要ですが、同時に重要な個人情報であるため、適切に保管、管理することも義務付けられています。
国税庁のフォーマットを利用する
支払調書を作成する際には、国税庁が提供する公式のフォーマットを使用することが基本です。国税庁のホームページからPDFでダウンロードできます。年ごとに更新されるため、必ず該当年度のフォーマットを利用しましょう。フォーマットを利用することで、源泉徴収表を含んだリストの法定調書合計表との整合性を保つことができます。業務を効率化し、正確な提出を行うためにも、公式フォーマットの活用はおすすめです。
支払調書の作成手順
支払調書の作成手順は以下のとおりです。
- 支払先情報(氏名・住所・マイナンバーなど)を収集
- 報酬・料金の支払い明細を整理
- 支払調書フォームへの入力(国税庁のフォーマット利用がおすすめ)
- 記載内容の確認作業
- 税務署へ提出
報酬や契約金などの支払いが生じた取引について、帳簿や請求書を元に必要情報を整理し、記載欄ごとに正確に記入します。摘要欄には支払い内容の詳細を簡潔に書くことで、税務署が内容を正確に把握しやすくなり、提出後の問い合わせの数を減らすことができます。確認作業はダブルチェックをしましょう。手間はかかりますが、正確な作成が求められる書類なので、複数人での確認体制を整えることが理想です。
e-Taxでの提出も可能
支払調書は、書面での提出だけでなく、国税庁の電子申告システム「e-Tax」を通じての提出が可能です。e-Taxを利用すれば、物理的な郵送作業が不要となり、手間とコストを削減できます。受付確認や控えの保存もスムーズです。特に件数が多い事業者にとっては、入力の自動化やフォーマット取込み機能によって、大幅な業務効率の向上が期待できるでしょう。
e-Taxは事前に電子証明書の取得や利用者識別番号の登録が必要です。ただ一度導入すれば毎年の申告作業の円滑化が図れます。国税庁からの提出受理通知も即座に確認できるため、紛失や遅延リスクを軽減できるでしょう。
支払調書と受給者への交付
支払調書は税務署への提出が義務付けられた法定調書ですが、支払先である受給者に対しても、任意で交付することができます。受給者にとっても、支払調書を受け取ることで、年度末の確定申告の際にエビデンスとなり、メリットがあります。
受給者への交付は義務ではない
支払調書は、支払を受けた受給者への交付は法的義務ではありません。そのため、事業者側が受給者へ交付しなくても、法令違反にはなりません。しかし、実務上は取引の透明性の確保や、受給者側の確定申告をスムーズに行うために、交付するケースが一般的です。
受給者にとっても、支払調書を受け取っておくことで、年間の所得を正確に把握しやすくなり、事業者、受給者の双方にとって取引の信頼性を高めることができ、トラブル防止につながるため、任意であっても交付することが望ましい対応といえるでしょう。
支払調書があると確定申告に便利
受給者が確定申告を行う際に、支払調書があると収入金額や源泉徴収額の確認がスムーズになります。特に複数のクライアントから報酬を受け取っているフリーランスや個人事業主にとって、年間の所得を正確に把握することは重要です。支払調書に記載された金額をもとに、収入欄や源泉徴収額を記入することで、申告ミスを防ぎ、税務署からの問い合わせや追徴課税のリスクを軽減できます。
会計ソフトを利用して確定申告を行うケースも多いと思います。多くのソフトでは支払調書の情報を入力する項目が設けられており、あらかじめ受け取っておけば、確定申告の作業時間短縮につながります。
支払調書のよくあるミスと注意点

支払調書は正確な記載が求められる法定調書のひとつで、ミスが発生すると税務署からの問い合わせや、再提出を求められることがあります。事前に注意点を把握して、トラブルを未然に防ぎ、スムーズな処理対応につなげましょう。
記載漏れや金額間違い
支払調書でもっとも多いミスが、受給者情報や金額の記載漏れ、誤記です。マイナンバーの記載忘れや氏名の誤字脱字、支払金額と源泉徴収額の整合性が取れていないケースは、税務署から修正の連絡が入る原因となります。
金額については、税込か税抜かの判断間違いが多く発生します。源泉徴収額に影響を及ぼすため、注意が必要です。作成後は必ずダブルチェックを行い、記載ミスの防止を心がけましょう。
提出期限の見落とし
これまでも何度も述べましたが、原則として支払調書の提出期限は翌年1月31日と定められています。この期限を過ぎると加算税や延滞税などのペナルティが発生する恐れがあるため気をつけましょう。
年末年始の多忙な時期と重なるため、提出が後回しになりがちですが、早めに準備を進めることが重要です。支払先が多岐にわたる場合は、作成に時間がかかるため、スケジュール管理と早期の情報収集を心がけましょう。
データの保存義務
事業者には、支払調書の作成に使用した元帳や請求書、フォーマットの控えなどは、原則として7年間の保存義務があります。税務調査が入った場合は、過去の帳簿を提示する必要があるため、電子ファイルや紙ベースでの保管体制を整えておきましょう。
近年ではこれらのデータはデジタル化されているケースが多いので、会計ソフトなどを使って、しっかりと保存しましょう。その際に、ファイル名やフォルダをわかりやすいように整理しておくと、必要時にスムーズに確認できるので、データベースの構築に気を配りましょう。保存ルールを守ることは、税務上の信頼確保にもつながります。
まとめ
支払調書は報酬や料金の支払いに関して、正確な記載と期限内の提出が求められる重要な法定調書です。記入ミスや提出遅れを防ぐためには、国税庁の最新フォーマットを活用し、ていねいな確認作業を行うことが大切です。件数の多い事業者は、作業の効率化のために、e-Taxや会計ソフトの活用も検討しましょう。