企業や法人で経理・会計を担当している方であれば、一度は耳にしたことがあるのが「電帳法」という言葉ではないでしょうか。正式名称は「電子帳簿保存法」で、紙で保存していた帳簿や領収書などを電子データとして保存できるよう定めた法律です。
今回は、電帳法の基本について詳しく解説していきます。
電帳法とは?
電子帳簿保存法、通称「電帳法」は、企業が帳簿や書類を電子的に保存する際のルールを定めた法律です。従来は領収書や請求書を紙で保管することが義務付けられていましたが、ペーパーレス化の推進や業務効率化の観点から、電子データでの保存が認められるようになりました。
ここからは、電帳法について詳しく解説します。
電帳法とは電子帳簿保存法の略称
「電帳法」という略称は、「電子帳簿保存法」の頭文字をとったもので、特に税務や会計業務に携わる現場では一般的に使われています。法律や制度の正式名称は長くなりがちですが、実務上の会話や資料の中で「電子帳簿保存法」と毎回記載するのは煩雑です。そのため「電帳法」という略称が広まり、ニュースや解説記事、税務調査関連の説明でも多用されるようになりました。
電帳法は1998年に制定されて以来、時代の変化に合わせて改正を重ねてきました。特にクラウド会計ソフトの普及や電子取引の拡大により、電子データの保存を前提とした制度へと進化しており、今では中小企業から大企業まで幅広い事業者が対応を求められています。
この法律を理解することは、単に「データ保存のルール」を守るためだけではありません。効率的な経理体制の構築や、税務リスクを回避するための重要なポイントにもなります。
電帳法には、3つの区分がある
電帳法は、大きく次の3つの区分に分かれています。
- 電子帳簿等保存
- スキャナ保存
- 電子取引データ保存
電子帳簿等保存は、企業が会計ソフトなどで作成した帳簿や決算関係の書類などを電子データとして保存する場合の要件を示したものです。訂正や削除を行った場合の履歴管理や、保存データの検索性が確保されていることが求められます。
スキャナ保存は、紙で受け取った領収書や請求書をスキャンして画像データとして保存できる仕組みを指します。原本の真実性を担保するため、一定の解像度やカラー保存、タイムスタンプの付与などが必要とされています。
電子取引データ保存では、電子メールやクラウドサービスを通じて受領した請求書や領収書などの取引データを、電子データとして保存します。従来のように印刷して紙で保管する方法は認められず、電子保存が法的に義務付けられています。
いずれの保存方法でも共通して重要なのは「改ざん防止」と「検索性の確保」です。タイムスタンプや訂正・削除の記録機能、日付や取引金額で検索できる仕組みなどが備わっているかどうかが大切です。
電帳法は単なる業務効率化のための制度ではなく、国税庁が定めた法令遵守の枠組みであることを理解し、適切に運用していく必要があります。
電帳法の対象者
電帳法の対象者は、取引に関する帳簿や書類を電子的に保存する法人や個人です。具体的には、請求書・領収書・契約書などを紙ではなく電子データでやり取りした場合、そのデータの保存義務が発生します。
システムやクラウドサービスを利用すると、スムーズに電帳法に対応できます。
電帳法の改正内容

電帳法は1998年の制定以来、社会やビジネスのデジタル化に合わせて何度も改正されてきました。特に近年は電子取引の拡大やクラウドサービスの普及を背景に、大きな制度変更が相次いでいます。ここでは主な改正点を整理してみましょう。
まず注目すべきは、電子取引データの保存義務化です。2022年1月の改正により、メール添付の請求書やクラウド経由で受け取った領収書など、電子的に授受した取引データは紙に印刷して保存することが認められなくなりました。電子データは電子のまま保存することが必須となり、法的な義務が課されています。
制度開始当初は中小企業や個人事業主への負担を考慮し、猶予措置が設けられました。国税庁の指針により、2023年末までは宥恕期間が設定されていましたが、2024年1月からは完全義務化されています。これにより、すべての事業者が電子取引データを電子保存しなければならない状況となっています。
また、要件の緩和も進んでいます。従来は厳格に求められていたタイムスタンプの付与やスキャナ保存時のチェック体制について、一部条件が緩和され、クラウドサービスや会計ソフトを利用すれば比較的容易に対応できるようになりました。これにより、中小企業や小規模事業者でも現実的に運用可能となっています。
さらに、検索機能の確保についても条件が見直されました。日付や金額、取引先で検索できる機能が求められていますが、実務の負担を軽減するために柔軟な対応が認められています。
このように、電帳法の改正は単に規制を強化するだけではなく、現場の負担を減らしながらも電子保存を確実に普及させる方向で進められています。したがって、今後も法改正の動向を注視し、自社の運用方法を随時見直すことが重要です。
電帳法の要件
電帳法の要件は、電子データを税務上有効な証拠として認めるために定められた基準です。大きく「真実性」「可視性」「検索性」の3つが柱となります。
真実性では、タイムスタンプ付与や訂正・削除履歴の保存、訂正・削除できないシステムの利用、または事務処理規程の整備により改ざん防止を図ります。
可視性は、保存データを明瞭な形式で保管し、調査時に速やかに画面表示や印刷ができること、さらに操作説明書や出力環境の整備が求められます。
検索性については、取引日・金額・取引先で検索できる機能が必須とされ、範囲指定や項目の組み合わせ検索も原則必要ですが、一部免除が認められることもあります。
電帳法の対象書類
電帳法の対象書類は、「国税関係帳簿書類」「国税関係書類」「電子取引データ」に分類されます。帳簿には仕訳帳や総勘定元帳など会計ソフトで作成したものも含まれます。
国税関係書類は「決算関係書類(貸借対照表・損益計算書など)」と「取引関係書類(契約書・請求書・領収書・見積書など)」に分かれ、幅広い証憑類が対象です。
さらに、メールやクラウド、ECサイトから授受した請求書・領収書などの電子取引データは、電子データのまま保存することが義務化されています。
電帳法に対応できるソフト3選

電帳法に対応するには、単にデータを保存するだけでは不十分で、改ざん防止や検索性、履歴管理といった国税庁が定める要件を満たす必要があります。そのため、多くの企業では専用の会計ソフトやクラウドサービスを導入して対応しています。ここでは代表的なソフトを3つ紹介します。
①弥生会計オンライン
中小企業や個人事業主に人気の高いクラウド会計ソフトです。銀行口座やクレジットカードとの連携機能を備えており、取引データを自動で取り込んで仕訳を作成します。電子帳簿保存法の改正にもいち早く対応しており、タイムスタンプや訂正・削除履歴の管理、検索機能など必要な要件を満たしています。導入コストが比較的低く、経理担当者が少ない事業者に適しています。
②freee会計
スタートアップや小規模法人に支持されるクラウド型会計ソフトです。スマホアプリとの連携が強みで、領収書を撮影してスキャン保存する機能や、電子取引データを自動保存する機能を提供しています。電子帳簿保存法に完全対応しており、最新の改正に基づく要件を満たした形でデータを管理できます。操作画面が直感的で、会計知識が少ない人でも導入しやすいのが特徴です。
③WEBバランスマン(公益法人向け)
公益法人や非営利団体のために設計された会計ソフトで、公益法人の会計基準に準拠した帳簿管理を実現できます。電子帳簿保存法に対応しているため、領収書や請求書の電子保存も可能です。特に公益法人に特化している点が大きな特徴で、一般の会計ソフトでは対応しきれない複雑な会計処理もサポートします。公益法人会計に従事している方にとっては、電帳法対応と会計基準対応を同時に実現できる安心の選択肢です。
電帳法で注意すること
電帳法は、単に電子データを保存するだけでなく、法律で定められた要件を満たさなければなりません。対応が不十分だと、後々の税務調査や監査で問題になる可能性があるため注意が必要です。ここでは特に重要なポイントを整理します。
改ざん防止措置を行うこと
電帳法では、電子取引データやスキャンデータについて「改ざんされていないこと」を証明する必要があります。そのため、タイムスタンプの付与、訂正削除履歴の保存、システム上での自動記録など、いずれかの方式で改ざん防止措置を講じることが求められています。
検索要件を満たすこと
保存した電子データは、日付や金額、取引先名などで検索できる必要があります。例えば「2024年5月、金額10万円以上、取引先A社」といった条件で検索できる状態を整備しなければ、電帳法に適合しているとは認められません。会計ソフトやクラウドサービスを利用すれば、これらの要件を満たしやすくなります。
紙と電子の併用ルールに注意
電子データで保存した場合は、紙の書類と二重管理を行う必要はありませんが、誤って紙と電子で内容が異なる状態が発生するとトラブルの原因になります。特に社内での運用ルールを統一し、電子保存を徹底することが大切です。
対応遅れのリスク
電帳法に対応していないと、税務調査の際に経費として認められなかったり、青色申告の承認が取り消される可能性もあります。国税庁は電子データ保存を原則としているため、今後はさらに対応が必須となっていくでしょう。
電帳法のよくある質問
ここからは、電帳法のよくある質問について解説します。
電帳法に対応しないとどうなりますか?
場合によっては、青色申告の承認取り消しや追徴課税といった税務上の不利益を受ける可能性があります。システムを導入するなどして電帳法に対応できる環境を作ることをおすすめします。
電帳法の対象外となる書類はありますか?
手書きで作成した文書や紙の書類を受領した場合は、電帳法の対象外となります。PCで作成した文書やデータで受領した文書は対象となります。
電帳法についてまとめ
電帳法(電子帳簿保存法)は、経理や税務に関わるデータを電子的に保存する際のルールを定めた法律であり、デジタル化が進む現代において避けては通れない制度です。従来の紙保存から電子保存へ移行することで業務効率を高められる一方、改ざん防止措置や検索要件など、法律で定められた条件を満たす必要があります。
また、法改正によって電子取引のデータ保存が原則義務化されたため、対応を怠ると税務調査での指摘や不利益を受けるリスクがあります。特に中小企業や公益法人にとっては、専門知識が不足していると対応が遅れがちになるため、信頼できる会計ソフトや専用システムを導入して対策することが重要です。
市販の会計ソフトや公益法人向けの「WEBバランスマン」のようなツールを活用すれば、電帳法の要件に合致した保存が可能になり、法的リスクを軽減しながら業務効率化も実現できます。
今後も電子化の流れは加速していくと考えられます。電帳法への対応を単なる義務として捉えるのではなく、自社の業務改善やコスト削減につなげるチャンスとして前向きに取り組むことが、これからの経理・会計部門に求められる姿勢だといえるでしょう。