公益法人の会計基準は、2025年に始まった新基準です。しかし、経理担当者や経営者など、改正後の新基準に対応するための知識や変更点の把握ができていない方も少なくありません。そこで本記事は、改正の内容を整理して、改正後に対処すべき具体的なポイントを解説します。
公益法人の会計基準の改正とは

公益法人の会計基準は、公益法人に対して会計書類や財務書類を作成するときの指針となるルールです。これまでも改正は行われてきましたが、今回、2025年(令和7年)にも新たな改正基準が導入されています。
運用指針やガイドラインなどを策定した2024年(令和6年)の公布を踏まえて、「新基準」や「令和6年会計基準」と呼ばれるものです。
公益法人の会計基準の改正の背景や理由
過去の公益法人の制度改革から10年以上が経過し、社会や会計の仕方に新たな課題が生じたことが背景にあります。従来の基準では法人ごとに処理方法が異なる場面があり、利害関係者からわかりにくいという声が上がっており、財務情報の比較が難しいとの指摘がされていたのです。
また、公益法人が保有する資産や寄付金の管理情報が十分に開示されていない場合も多々あります。
以上の課題を踏まえて、公益法人に固有の特徴を維持しながら企業会計基準も参考に、わかりやすい財務情報の開示を求めるために改正が行われたことが大きな理由です。
実際に、改正後の会計基準では、横並びで比較できる項目や透明性を重視した記載ルールなど、わかりやすさを重視しています。
公益法人会計基準の改正した項目
公益法人の会計基準の改正では、情報を明確にするような変更点がいくつか見られます。以下は、実際に変更された項目や内容です。
- 財務諸表の「正味財産増減計算書」を「活動計算書」に名称変更
- 「基本財産」や「特定資産」は、貸借対照表への記載から「注記」への記載に変更
- 「一般正味財産増減の部」の振替に使われていた振替処理の廃止
- 「正味財産」から「純資産」の区分に変更
- 貸借対照表を「1年基準」の表記に変更
- 固定資産の区分に、「その他有価証券評価差額金」を追加
- 「活動計算書」を財源区分別から活動別の表記(機能別)に変更
- 貸借対照表などの内訳表を注記に統合
- 「財務規律への適合状況に関する明細」の追加
- 附属明細書の「基本財産及び特定資産の明細」から「有形固定資産及び無形固定資産の明細」に変更
主な変更点は、以前の会計基準(平成20年会計基準)で使われていた書類の名称変更や、わかりやすさを重視した機能別の区分の変更です。
認識の曖昧な部分に対しても方針や容認範囲などを示すことで、公益法人が迷わず書類作成できる変更が加えられています。
参考:公益法人information「新公益法人会計基準に関する説明会」
公益法人会計基準の改正の主なポイントを解説
新たな会計基準で大きな変更点としてあげられるのは、「活動計算書」の名前の変更や処理区分の変更です。それを含めて、今回改正点となった部分のポイントを以下に解説します。
区分した経理の義務化
まずは、経理事務の際に、区分を示す処理が必要です。例えば、改正後は「活動計算書」の名称変更がされましたが、記載にばらつきのあった費用も、科目別から活動別に分類を変更します。
【新基準の例】
- 教育事業:人件費500万円、材料費200万円、光熱費50万円
- 研究事業:人件費300万円、材料費150万円、減価償却費80万円
- 収益事業:人件費200万円、材料費120万円、減価償却費100万円
【旧基準の例】
- 人件費:1,000万円
- 材料費:500万円
- 減価償却費:200万円
- 光熱費:100万円
旧基準に比べて、活動ごとの費用がわかるようになり、事業の収支や費用が明瞭です。寄付者や源資の提供者にとっては、教育費に提供した費用がきちんと使用されているかを確認する目安ともなります。
書類記載時の細かな変更点も上記のものを中心に、経営者や経理担当者が会計処理時に対応することが必要です。
貸借対照表の表示変更
貸借対照表における資産の表示方法も変更されています。従来は「基本財産」や「特定資産」を資産区分として本表(財務諸表の本文箇所)に計上していましたが、新基準では資産の形態によって「流動資産」と「固定資産」に整理され、公益法人特有の資産は注記で明示する形式に変更されたのです。
財務諸表そのものは一般の会計基準と同じような見やすい構成となり、詳細な情報は補足で確認する形に変わっています。公益法人に特有の事情がある場合でも、注記を活用することで透明性を維持できる変更点です。
固定資産の減損の会計
新基準では「固定資産の減損に関する考え方」が整理されています。会計監査人を置く法人は「資金生成資産」と「非資金生成資産」に分類して、減損の有無を判断し、減損額を具体的に計算します。
公益法人の事業用施設や設備は将来の収益を直接生まないことが多いため、通常は「非資金生成資産」に区分されます。その場合は利用価値が失われていないかを基準に判定します。
一方、会計監査人を置かない比較的小規模な法人は、従来どおり強制評価減という簡便的な方法を使えます。例としては、事務所の建物が老朽化して使えなくなり、売却価格が大幅に下がった場合に評価を下げる処理をするなどです。
「収益認識」の変更
収益の認識方法も見直されています。従来は企業会計の「実現主義」(取引成立時点で会計処理が発生する考え方)が用いられていたのです。しかし、新基準では取引の種類で分類した「交換取引」と「非交換取引」(寄付金・補助金)を区分する方法に変更しています。今後はこの区分で別々の会計処理が可能です。
例えば、寄付は申込と法人の承認がそろった時点で収益とし、補助金は交付決定通知を受け取った時に金額が確定していれば収益に含めます。公益法人がどの時点で収益を記録するかわかる情報が見られることは、利害関係者にとっても運用を判断しやすいのです。
関連当事者の範囲を広げる変更
新基準では、関連当事者の定義が広がります。従来は役員や評議員、その親族などが対象でしたが、新基準の考え方では従業員や設立者、その家族も含まれる形です。そのため、従業員の親族が関わるケースも書類に明示する必要が出てきます。
改正・公益法人会計基準の施行時期や経過措置
改正後の公益法人会計基準は、2025年(令和7年)4月1日以降に開始し、その事業年度から適用されます。ただし、急な移行による実務負担を減らすため、経過措置が設けられています。
具体的には、2028年3月期までの間は従前の基準を選択して財務諸表を作成することが可能です。この措置により、会計システムの更新や担当者の教育に時間を要する法人も無理なく移行できます。
改正前後でも使える公益法人向けの「WEBバランスマン」

公益法人が改正した新たな会計基準に組織内体制を移行する際に、利用したいのが「WEBバランスマン」です。公益法人向けの機能が充実しているクラウド型の会計システムとなります。
貸借対照表や活動計算書に加え、附属明細書や注記に必要な情報も出力できる機能が特徴です。過去の会計基準の年度を選べるなど、改正基準への対応もシステム内の入力機能を使用すれば、システム更新などをしなくても対応できます。
公益法人の会計基準の改正についてのまとめ
公益法人会計基準の改正は、公益法人が今後対応しなくてはいけない新基準です。改正内容は基本方針として利害関係者にわかりやすい情報を提供することで、そのための細かな変更がされています。
施行時期は2025年4月からで、2028年3月期までは経過措置として旧基準も使用できます。しかし、早めに準備を整えてくことが大事です。